化学物質過敏症とは?

化学物質過敏症について 

(2005年10月3日修正)   

化学物質過敏症とは‥

さまざまな種類の微量化学物質に反応して苦しむ、化学物質過敏症(Chemical Sensitivity=CS)。
重症になると、仕事や家事が出来ない、学校へ行けない…など、通常の生活さえ営めなくなる、極めて深刻な“環境病”です。

※化学物質過敏症は、日本ではCSとも呼ばれますが、欧米ではMCS(Multiple Chemical Sensitivity=多種類化学物質過敏症)の略称のほうが一般的です。

 

増え続ける化学物質 化学物質過敏症の主な症状
だれにも発症の可能性 自分の身の置き場がない患者たち
多い潜在患者 転地先を求めて
周囲の無理解にも苦しむ 今、苦しんでいる発症者への緊急対策を
シックハウスや農薬などで発症 学校で家庭で地域で…子どもが危ない
職場や大気の汚染でも 化学物質が多動や学習障害の原因に
  「健常者」のあなたへ

 

増え続ける化学物質

化学物質過敏症は、何かの化学物質に大量に曝露されたり、または、微量だけれども繰り返し曝露された後に、発症するとされています。
化学物質への感受性は個人差が大きいため、同じ環境にいても発症する人としない人がいます。
「今日、推計で5万種以上の化学物質が流通し、また、わが国において工業用途として届け出られるものだけでも毎年300物質程度の新たな化学物質が市場に投入されています。化学物質の開発・普及は20世紀に入って急速に進んだものであることから、人類や生態系にとって、それらの化学物質に長期間暴露されるという状況は、歴史上、初めて生じているものです」(2003年版『環境白書』より)。
その一方で、「今日、市場に出回っている化学物質のなかで、量として75%に当たるものについて、基本的な毒性テストの結果すら公開されていない」(米国NGOの環境防衛基金『Toxic Ignorance(毒性の無知)』1997)といった現状があります。
「便利な生活」のために、化学物質を開発、利用していくことが優先され、安全性の検証は後回しにされがちです。こうした背景のもと、「環境ホルモン」「化学物質過敏症」など、従来予想できなかった新たな問題が表面化してきたのです。

 

だれにも発症の可能性

戦後、急激に増えた花粉症も“環境病”の一つだと言えます。杉などが多い山村よりも、車の排気ガスなどで汚染された都市の方が、患者が多いと言われています。たとえば、ディーゼル排気粒子は、IgE抗体を増やす作用などがあります(国立環境研究所のホームページ)。
昨年まではまったく異常がなかったのに、ある年を境に突然発症する花粉症。化学物質過敏症もこれと同じように、あなたが突然、発症者になるかもしれません。

多い潜在患者

化学物質過敏症の発症者数について、日本ではまだ調査例が少ないのですが、内山巌雄・京都大学大学院教授らは、成人を対象に行った調査から全国で約70万人と推計しています。子どもも含めれば100万人程度になりそうです。
しかし、多数の医師はこの病気に関心を持っておらず、診療できる医師は限られています。このため、「更年期障害」「精神疾患」など、別の疾患として診断されたり、「原因不明」として放置されている潜在患者が多数いるものとみられています。 

化学物質過敏症患者が人口に占める割合についての調査例
調査地 調査年 割 合
米カリフォルニア州*1 1995, 96 MCSまたは環境病と診断6%
日常的な化学物質に過敏16%
米ニューメキシコ州*1 1997 MCSまたは環境病と診断2%
日常的な化学物質に過敏16%
米ノースカロライナ州 *2 1996 13.9%
米ジョージア州
アトランタ市*3 
1999~2000 MCSまたは環境病と診断3.1%
日常的な化学物質に過敏12/6%
日本全国*4  2000  可能性が高い0.74%
可能性がある2.1% 
*1 米国の臨床環境医らによる「多種類化学物質過敏症-1999年同意事項」
*2 W.J.Meggs
*3 Stanley M. Caress Anne C. Steinem ann
*4 国立公衆衛生院(現・国立保険医療科学院)の内山厳雄労働衛生学部長(現・京大大学院教授) 

  

周囲の無理解にも苦しむ

実際、明らかな体調不良にもかかわらず、医師らに「異常なし」「気のせい」などと言われ続け、「CS」と診断されるまで、医療機関を何カ所も渡り歩いた経験を持つ方は、少なくありません。
このため、「お医者様が『異常なし』とおっしゃっているのだから」と、家族からも理解してもらえない発症者が少なくありません。
発症者は症状だけでなく、孤独にも苦しめられているのです。

発症者の反応を引き起こす主な化学物質など
▼発症者の90%以上に症状が出るもの 
・家庭用殺虫
・殺菌
・防虫剤類
▼発症者の80%以上に症状が出るもの 
・香水などの化粧関連用品類 
・衣料用洗剤類 
・防臭
・消臭
・芳香剤類 
・タバコの煙 
・シャンプーなどボディーケア用品類 
・灯油などの燃料類 
・ペンなど筆記用具類
・印刷物類
※横浜国立大学・糸山景子氏らが、CS支援センターの発症者488名(回答者278名)に行ったアンケート結果より

右のほか、発症者が反応するもの
新建材・塗料から放散される化学物質、排気ガス、電磁波、においが強い天然のものなど
(個人差あり)

 

シックハウスや農薬などで発症

化学物質過敏症(CS)の発症原因の半数以上が、室内空気汚染です。
室内空気汚染による健康影響は、「シックビル症候群」「シックハウス症候群」とも呼ばれています。自宅や職場、学校などの新築、改修、改装で使われる建材、塗料、接着剤から放散される、ホルムアルデヒド、揮発性有機化合物(VOC)などが、室内空気を汚染するのです。
建築物自体だけでなく、室内で使われる家具、殺虫剤、防虫剤や、喫煙なども室内汚染を引き起こし、CSの発症原因になります。
室内、屋外を問わず盛んに使われている有機リン系農薬(殺虫剤)は、さまざまな毒性(神経作用、アレルギー悪化、視力低下など)が指摘されています。
特に問題なのが、有人・無人ヘリコプターによる空中散布です。
ガス化した農薬が、対象の田畑や森林だけでなく、周辺の住宅地などにも長期間留まり、有機リン中毒やCSなど、深刻な健康被害をもたらしています。
また、農産物生産以外の目的で使われる農薬(シロアリ防除剤、庭・公園・街路樹の殺虫剤など)には、ごく一部を除いて規制がなく、発症原因となったり、発症者を苦しめています。

化学物質過敏症の原因
シックハウス 59%
農薬・殺虫剤 21%
有機溶剤 8%
その他 12%
患者221名(女性164名、男性57名)。6~62歳(平均42歳)。
北里研究所病院臨床環境医学センターの坂部貢先生による

職場や大気の汚染でも

職業上扱う有機溶剤なども、CSの発症原因になります。パーマ液や合成洗剤(シャンプー)を扱う美容関係、消毒液を扱う医療関係、化学関係、印刷関係などで働く方々が発症するケースが目立っています。
そのほか、ごみ処理施設による大気汚染で、多くの周辺住民が発症したケースもあります(「杉並病」など)。 

化学物質過敏症の主な症状
【目】かすみ/視力低下/物が二つに見える/目の前に光が走るように感じる/まぶしい/ちかちかする/乾き/涙が出やすい/ごろごろする/かゆみ/疲れ/目の前が暗く感じる
【鼻】鼻水/鼻詰まり/かゆみ/乾き/鼻の奥が重い/後鼻腔に何か流れる感じがする/鼻血
【耳】耳鳴り/痛み/耳のかゆみ/音が聞こえにくい/音に敏感になった/耳の中がぼうっとする感じがする/耳たぶが赤くなる/中耳炎/めまい
【口やのど】乾き/よだれが出る/口の中がただれる/食べ物の味が分かりにくい/金属のにおいがする/のどの痛み/のどが詰まる/ものが飲み込みにくい/声がかすれる/喉頭に浮腫ができる
【消化器】下痢や便秘/むかむかして吐き気がする/おなかが張る/おなかの圧迫感/おなかの痛みや痙攣/空腹感/胸焼け/げっぷやおならがよく出る/胃酸の分泌過多/小腸炎や大腸炎
【腎臓・泌尿器】トイレが近くなる/尿がうまく出ない/尿意を感じにくくなる/夜尿症/膀胱炎/腎臓障害/インポテンツ/性的な衝動の低下や過剰
【呼吸器・循環器】せきやくしゃみ/呼吸がしにくい/呼吸が短くなったり呼吸回数が多くなる/胸の痛み/息遣いが荒くなる/喘息/脈が速くなる/不整脈/血圧が変動しやすい/皮下出血/寒さに対して皮膚の血管が過敏になる/血管炎/にきびのような吹き出物が出やすい/むくみ
【皮膚】湿疹、蕁麻疹、赤い斑点が出やすい/かゆみ/引っ掻き傷ができやすい/汗の量が多い/皮膚が赤くなったり青白くなったりしやすい/光の刺激に対して過敏になる
【筋肉・関節】筋肉痛/肩や首がこる/関節痛/関節が腫れる
【産婦人科関連】のぼせたり、顔がほてったりする/汗が異常に多くなる/手足の冷え/おりものが増える/陰部のかゆみや痛み/生理不順/不妊症/生理が始まる前にいらいらしたり、頭痛、むくみなどがある/感染症にかかりやすくなる
【精神・神経】頭が痛くなったり、重くなったりする/手足のふるえや痙攣/うつ状態や躁状態/不眠/気分が動揺したり不安になったり精神的に不安定になる/記憶力や思考力の低下/食欲低下/いらだちやすく怒りっぽくなる
【その他】貧血を起こしやすくなる/甲状腺機能障害 
※人によって現れる症状が異なり、広範囲の症状が現れる
宮田幹夫・北里研究所病院臨床環境医学センター客員部長著「化学物質過敏症」(保健同人社)より)

自分の身の置き場がない患者たち

化学物質過敏症の特徴の一つに、アレルギーなどと比べても、はるかに少ない量の化学物質に反応することがあります。ホルムアルデヒドの室内空気濃度指針値は0.08ppmですが、それより低い濃度で反応する発症者の方もいます。
重症の方は、身の回りの多種類の微量化学物質に反応するため、起きている間じゅう、絶え間なく苦しみます(発症者によっては寝ている間でさえ、不眠や悪夢で苦しめられます)。着られる服がない、使える生活用品がない、食べられるものを探すのも一苦労(農薬や添加物が使われたものは食べられません)。そして何よりつらいのは、自分のこの体を安心して置ける場所がないことです。 

転地先を求めて

発症者は、化学物質が出来るだけ少ない環境への転地療養を切望しています。化学物質が少ない環境では、多くの発症者は見違えるほど元気になります。発症者は回復すれば、再び通常の生活が出来るようになりますが、転地療養は回復を早める最善の方法の一つです。
しかし、現実には、転地療養先を探すことはたいへん困難です。近年の住宅のほとんどは、化学物質が揮発する建材が使用されています。運良く古い家を見つけても、前の住人が使用していた防虫剤が染みこんでいる場合があります。
また、家の周辺環境も問題です。近隣住宅での新築・リフォーム工事や合成洗剤使用、近隣の庭や農地でのごみ焼却や、庭・農地・森林での農薬散布などは、発症者にとって脅威です。
発症者の中には、少しでも良い環境を求めて引っ越しを何度も繰り返し、お金をほとんど使い果たしてしまった方々もいらっしゃいます。 

今、苦しんでいる発症者への緊急対策を

 「シックハウス症候群」が多発して社会問題化したことから、厚生労働省は、室内空気の化学物質濃度に指針値を設けました。国立病院機構の一部の病院では、シックハウス症候群を診断できる態勢が整備されつつあります。2003年7月には改正建築基準法が施行され、シックハウス症候群予防のための法規制が始まりました。
 また、これまでの調査研究報告結果から厚生労働省は、カルテや診療報酬明細書(レセプト)に記載するための病名リストに、2009年10月1日から化学物質過敏症を登録しました。  
 このことによって、これまで「シックハウス症候群」「自律神経失調症」「うつ病」など、他の病名で治療を受けたり、申請をせざるを得なかった障害年金においても、「化学物質過敏症」という正しい病名による認定が増加し、わずかではありますが生活保障されるケースが報告されています。

 しかしながら、 根本的な脱化学物質、脱電磁波など、目に見えない環境汚染物質の発生や使用に対する幅広い規制、対策は、ほぼ無策と言っても過言ではありません。
  また、化学物質過敏症が心療内科や精神科の範疇とする見解もあり、精神薬服用によってさらなる体調悪化を招いたり、依存症になるケースも報告され、環境病治療に対する医療全体の認識、専門医療機関と医師の確立などを広げる動きを、発症者自体から強く訴えていく必要があると考えます。

学校で家庭で地域で…子どもが危ない

 「シックスクール」という言葉が聞かれるようになりました。子どもにとって安全であるべき学校の環境が原因で、子どもや教職員が化学物質過敏症などを発症したり、または、すでに化学物質過敏症やアトピー、アレルギーになっている子どもや教職員の症状が悪化するケースです。
 化学物質過敏症を発症している子どもや教職員の多くは、床に塗るワックスや教材から揮発する化学物質、教職員のたばこや香水、校庭の樹木へ散布される殺虫剤などに反応して、症状が出てしまいます。
 また、校舎の新築や改修による集団的な健康被害の発生例も報道されています。
 学校側が協力して、教材を出来るだけ安全なものに替えたり、教室の換気を励行したり、教職員がたばこや化粧を控えるなどの対応を取れば、化学物質過敏症の子どもでも通学できる場合があります。しかし、化学物質の問題について知識がない関係者がまだ多いため、子どもや親からの訴えがなかなか理解されないケースも目立ちます。
 また、学校側が協力しても学校に通えないほどの重症の子どもの場合は、養護学校からの訪問教育などで対応するよう、文部科学省は指導しています。しかし、「人員が足りない」などの理由で、実施されないこともあります。
 化学物質に悩む子どもたちは、「私たちも勉強したいし、友だちと一緒に遊びたい」「ぼくたちも通える学校を造って」と訴えています。

化学物質が多動や学習障害の原因に

シックスクールは、一部の「過敏な子」だけの問題ではありません。
化学物質過敏症の典型的な症状の一つに、集中力・思考力が欠けて落ち着きがなくなる、感情を制御しづらくなり怒りやすくなる、というものがあります。化学物質に曝露されると「キレる」子どもが(大人も)現実にいます。一見すると元気で活発な子どもが、実は病気のせいで“多動”になっていた、という例も報告されています。粗暴だった化学物質過敏症の子どもが(大人も)回復すると、ウソのように優しくなったという症例は、珍しいものではありません。
また、有機リン化合物などの化学物質が、多動を引き起こすという動物実験結果も報道されています(『朝日新聞』2003年10月30日付)。
今日、落ち着きのない子ども、感情を制御できない子どもが、いかに多いかということは、皆さんもご承知の通りです。
親も教職員も、そして子ども本人も気付かないうちに、化学物質の影響を受け、「多動児」「問題児」扱いされている子どもたちも、きっといるのではないかと思われます。子どもがなぜキレるのかを調べる際には、原因の候補に化学物質も含めるべきだと、研究者は指摘しています。
化学物質過敏症の子どもたちが通えるような学校にすることは、他のすべての子どもたちの健康を守ることにもなるのです。

「健常者」のあなたへ

化学物質過敏症を発症していない皆様に、お願いがあります。

■ 予防してください
化学物質過敏症を発症しないために、化学物質にできるだけ曝露されないよう、より安全な生活習慣を心がけてください。化学物質過敏症は多くの場合、特別なものによって発症するのではありません。「危険」だとして禁止される化学物質は、禁止される直前まで普通に使用されているのです(使用されていなければ、禁止する必要がありません)。あまり神経質になる必要はありませんが、化学物質の安全性・危険性については完全には解明されていないこと、また、単一の化学物質は安全でも、身の回りには数百種類かそれ以上の化学物質が常に存在し、その複合影響があり得ることにご留意ください。
【具体的な予防策】
・室内空気を汚さない(換気の励行。噴霧式・スプレー式殺虫剤、芳香剤、消臭剤は使用しない。蚊取り線香は使用しないか短時間に限って使用。衣類防虫剤は使用しないか密閉容器中で使用。あらゆるスプレー類は使用しないか戸外で使用)
・食品は安さだけでなく安全性にも注意を
・合成洗剤はやめて石けんに
・住宅の新築・改修・改装は特に注意
・「あれば便利」程度で、なくても良いものは使わない
・家庭だけでなく、職場、学校・幼稚園などでも同様に
・適度な運動で汗をかいてください

■ 発症者を助けてください
あなたの近くに化学物質過敏症の発症者がいたら、ぜひ手をさしのべてください。
地域や職場、学校内の化学物質をできるだけ減らすよう、協力してください。

■ 当センターをご支援ください
国は化学物質過敏症の発症者への支援策をほとんど講じていません。
化学物質過敏症支援センターは、発症者を支援するための活動や、これ以上発症者を増やさない社会の形成のための活動に、微力ながら取り組んでいます。
当センターへのご入会、ご寄付、ボランティアスタッフとしてのご参加を通して、発症者支援にお力をお貸し下さい。

 

※ここに掲載している内容と、CS支援センターの紹介などを掲載したパンフレット「増えている化学物質過敏症」を発行しています (A4判12頁、色上質紙、大豆油インク)。
ご希望の方はCS支援センター事務局までご連絡ください。 (実費ご負担頂いています)